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福岡地方裁判所 昭和56年(行ウ)8号 判決 1982年12月21日

原告 小峠富生

被告 添田町外三ヶ町村清掃施設組合組合長 福岡県田川郡川崎町長 田川市長

主文

一  し尿浄化槽清掃業許可について、被告添田町外三ヶ町村清掃施設組合組合長山本文男が原告の昭和五六年四月一〇日付申請に対して同月二〇日にした不許可処分、被告川崎町長村坂[車賛]が原告の同年三月二七日付申請に対して同年四月六日にした不許可処分、被告田川市長滝井義高が原告の同年三月三〇日付申請に対して同月三一日にした不許可処分をそれぞれ取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  一般廃棄物処理業(し尿、汚でい)許可について、被告添田町外三ヶ町村清掃施設組合組合長山本文男(以下、「被告組合長」という。)が原告の昭和五六年四月一〇日付申請に対して同月二〇日にした不許可処分、被告川崎町長村坂[車賛](以下「被告川崎町長」という。)が原告の同年三月二七日付申請に対して同年四月六日にした不許可処分、被告田川市長滝井義高(以下「被告田川市長」という。)が原告の同年三月三〇日付申請に対して同月三一日にした不許可処分をそれぞれ取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の被告らに対する各請求をそれぞれ棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告組合長は、福岡県田川郡添田町、大任町、赤村及び香春町の三町一村が各管内におけるし尿処理に関する事務を共同して行う目的で地方自治法二八四条一項の規定に基づき設立した添田町外三ヶ町村清掃施設組合の組合長である。

2  原告は、昭和五六年四月一〇日被告組合長に対し、同年三月二七日被告川崎町長に対し、同月三〇日に被告田川市長に対し、それぞれ一般廃棄物処理業及びし尿浄化槽清掃業の各許可申請をした。

被告組合長は、同年四月二〇日付で、「現在し尿収集についてはなんら支障を来たすことなく行なわれており、今後とも現業者で十分であると判断しました。」との理由を付して、いずれも不許可処分をし、同日ころ原告に通知した。

被告川崎町長は、同月六日付で、「現在当町の一般廃棄物処理(し尿、汚でい)の処理は困難でないため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第七条二項一号および第九条二項の規定により許可できない」との理由を付して、いずれも不許可処分をし、同日原告に通知した。

被告田川市長は、同年三月三一日付で、「現在当市において処理計画上、新規業者を必要としないので廃棄物の処理及び清掃に関する法律第七条二項二号及び第九条二項一号の規定により許可しないこととした」との理由を付して、いずれも不許可処分をし、同日原告に通知した。

3  しかしながら、被告らの右各不許可処分は、違法であるから、取り消されるべきである。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の主張は争う。

三  被告らの主張

1  被告組合長及び同川崎町長

生活環境の保全上一般廃棄物を収集し、運搬及び処分することは市町村の責務であり、市町村がその区域内の一般廃棄物の処理について一定の計画を定めなければならないことは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、単に「法」という。)六条の規定するところである。

ところで、原告の右各許可申請は、一般廃棄物処理収集(し尿及び浄化槽汚でい)及びし尿浄化槽清掃業の許可(法七条一項、九条一項の各許可)を一体として申請してきた。同被告らは、それぞれ策定した昭和五六年度一般廃棄物(し尿及び浄化槽汚でい)処理計画に照らし、同被告らの区域内人口から割り出した収集運搬を要する廃棄物の量、既に許可を与えた業者の処理能力と実績からみて処理は十分であること、新規業者を加えることによる摩擦等諸般の事情を考慮し、不許可とした。

2  被告田川市長

同被告が原告の一般廃棄物処理業の許可申請に対して不許可処分をしたのは、同被告が法六条一項に基づき策定した昭和五六年度田川市一般廃棄物処理計画に照らし、原告に対する新規許可が同市における一般廃棄物処理業務の円滑、完全な遂行にあたつての必要適切な処分であるとは認められないとの観点に立つたためである。

同被告が原告のし尿浄化槽清掃業許可申請に対して不許可処分をした事由は、前記と同一の理由に加えて、右不許可処分の時点で、原告が法の要求する技術上の基準に適合した施設の一つである自吸式ポンプその他の汚でいの引出しに適する器具(バキユーム式の汚でい収集運搬車、以下「バキユーム車」という。)を備えていなかつたことによる。

四  被告らの主張に対する原告の反論

1  (被告組合長の各不許可処分について)

法は、何よりも住民サービスの向上を目的とするもので、地元業者の育成を目的とするものではない。法七条一項及び九条一項の各許可についても、右目的に副うように解釈運用すべきものであるところ、同被告は、原告の能力や技術上の点に何ら欠格事由がない。

2  (被告川崎町長の各不許可処分について)

一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であるかどうかの点について、し尿浄化槽にたまつた汚でいの収集、運搬は、し尿浄化槽の清掃と一体として行われるのが通例であるから、そのような場合には、汚でい量の多少を問わず、全体的にみて困難と認定しなければならない。更に、原告は、同法施行規則(以下、単に「施行規則」という。)二条の二及び六条が定めているところに何ら欠けるところはなく、欠格事由がない。

3  (被告田川市長について)

田川市における一般廃棄物の処理についての計画に適合しないとの理由は、同市において右計画上新規業者を必要としないということのようであるが、この点については被告組合長について述べたところと同様である。又、原告は、施行規則六条に定めるその事業の用に供する施設及び能力が技術上の基準に適合しているとの要件に何ら欠けるところはなく、欠格事由がない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二  被告らの各不許可処分の適法性について検討する。

1  まず、法は、一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業につき、許可基準において、次のように異つた規定をおいている。即ち、一般廃棄物処理業は、法七条二項各号所定の要件を充足することが必要とされるのに対し、し尿浄化槽清掃業の許可基準としては、法九条二項一、二号の規定がある。法が右のように一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業を区別したのは、一般廃棄物(し尿浄化槽内のし尿も含む。)を収集し、運搬し、処分することは、じん芥処理、下水道処理事業などと同じく、生活環境の保全及び公衆衛生の向上をはかることを目的とする市町村固有の事務(地方自治法二条九項)によるものと解される。従つて、市町村は、その区域内における一般廃棄物の処理について、市町村が定めた一定の計画(法六条一項)に従つて、一般廃棄物を収集し、運搬し、処分しなければならないが、これを全て市町村自ら直接又は委託により行うことが実際上できない場合もあるので、かかる場合一般廃棄物処理業者をして処理させることとし、市町村に課せられた一般廃棄物処理事務を代行するものとして規制されるべきものであるから、市町村長あるいは地方公共団体の組合の組合長は、その営業の許可については、市町村の作成した一般廃棄物処理計画に従い、法の目的に照らし、当該市町村の実情のもと、自律性、専門技術的政策的判断の尊重される広範な裁量権をもつものと解される。他方、し尿浄化槽清掃業は本来それ自体で処理する機能をもつ浄化槽の内部の清掃等の維持管理にあることから、法は、これを市町村の固有の事務とすることなく、ただ専門的知識、経験をもち必要な器材を有する者によつて適正に維持管理がされないと市町村の生活環境の保全及び公衆衛生に多大の影響を及ぼす可能性が高いため一定の許可基準に達したものに限つてその業務をなしうべきものとして、許可制をとつたものと解される。以上のことは、昭和五三年八月一〇日の施行規則改正により、し尿浄化槽清掃業の許可とは別に、一般廃棄物処理業の許可が必要とされるに至つた経緯からもうかがわれる。

以上に照らせば、法七条一項の一般廃棄物処理業の許可は自由裁量行為(処分)であるが、法九条一項のし尿浄化槽清掃業の許可は覇束裁量行為(処分)であるというべきである。

2  被告らの一般廃棄物処理業不許可処分について、検討する。

原告と被告組合長との間では成立に争いのない甲第五号証、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三及び証人山橋勝美の証言を総合すれば、添田町外三ヶ町村清掃施設組合の昭和五六年三月二五日公示の同年度し尿収集計画において、福岡県田川郡添田町、大任町、赤村、香春町の三町一村の人口四万二八六一人のうち計画収集人口三万〇一三七人の年間収集量一万三二〇〇キロリツトルを昭和四八年以来許可業者三名がバキユーム車七台(予備七台)、料金三六リツトル当たり金三〇〇円で十分処理することができるとされており、従前の同様の計画に従つても住民からの苦情がなかつたので、同被告は、右実情から見て、原告の申請に対し、その必要がないと判断して、前記不許可処分をしたことが認められる。原告と被告川崎町長との間では成立に争いのない甲第一号証、証人藤川武夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証及び同証言を総合すれば、福岡県田川郡川崎町の昭和五六年度一般廃棄物(し尿及びし尿浄化槽汚でい)処理計画において、同町内の非水洗化人口二万三〇六三人(昭和五五年度二万三〇〇〇人)、水洗化人口八四〇人(同年度八〇〇人)、自家処理人口一六〇人(同年度二〇〇人)の運搬量年間一万一八六六キロリツトルを同町直営又は委託による処理をせずに許可業者二名(竹下衛生会こと竹下数雄と有限会社田川衛生工業)のバキユーム車五台(二トン車四台、四トン車一台、予備の二トン車二台)が一日四回運搬して月一回一家庭から収集することで十分処理しうることになつており、同被告は、新たに原告を加える必要がないと判断して、前記不許可処分をしたことが認められる。原告と被告田川市長との間では成立に争いのない甲第三号証、成立に争いのない丙第一ないし第四号証、同第五号証の一、二、同第一〇号証の一ないし五及び証人宇都宮昭生の証言を総合すれば、福岡県田川市においては、人口六万〇二一五人(二万〇四八一世帯)であるが、漸減傾向にあるうえ、水洗化も進んでいるので、昭和五六年度一般廃棄物処理計画上、し尿処理について一部直営の処理を除き年間のし尿量三万〇一〇〇キロリツトル、浄化槽汚でい二五四〇キロリツトルを九業者がバキユーム車一四台(昭和四四、四五年度一三台、昭和四六年度以来一四台)で月一回戸別収集をし、業者の原価計算と同市民全体のし尿総量を総合して条例上料金を一八リツトル当たり金一五〇円と定め、近隣市町村と比べて中位を維持しているところから、同被告は、新たに原告を加える必要がないと判断して、前記不許可処分をしたことが認められる。そして、被告らの右各不許可処分は、右認定の一般廃棄物(し尿、汚でい)処理計画に照らし、相当として首肯しうるところである。甲第九ないし第一一号証の記載も、右認定を左右するに足りない。原告の反論するところは、右裁量権の逸脱濫用事由に当たると認めることはできず、原告は、他にこの点について何ら主張しない。従つて、被告らの前記各不許可処分は、法七条の趣旨に従つた適法な処分といわざるをえない。

3  被告らのし尿浄化槽清掃業不許可処分について検討する。し尿浄化槽清掃業の許可は、上述のとおり覇束裁量行為と解されるから、原告が法九条二項の各要件を充足する限り、市町村は必らず許可を与えなければならない。前記争いのない請求原因2の事実及び前顕甲第一号証、同第三号証、同第五号証によれば、被告らの右各不許可処分は、このような判断をすることなく、一般廃棄物処理業の不許可と同様に裁量的に判断したことが認められる。

もつとも、被告らは、原告のし尿浄化槽清掃業の許可申請が一般廃棄物処理業の許可申請と一体をなしたものであるから、後者について不許可処分をした以上前者についても同様の処分をしたと主張する。確かに、原告と被告川崎町長との間では成立に争いのない甲第二号証の一、原告と被告田川市長との間では成立に争いのない同第四号証の一、原告と被告組合長との間では成立に争いのない同第六号証の一によれば、原告は、一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業の各許可申請を一枚の申請書に手書きして、被告らにそれぞれ提出したことが認められるので、被告ら主張のように各申請を一体としてなしたかの如く見受けられるところではあるけれども、前顕乙第三号証の一、二、丙第五号証の一、二、原告と被告川崎町長との間では成立に争いのない甲第二号証の二ないし九、原告と被告田川市長との間では成立に争いのない同第四号証の二ないし七、原告と被告組合長との間では成立に争いのない同第六号証の二ないし一七に前掲各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、被告らに対し、それぞれ規定様式の申請用紙にあらためて所定事項を記入し、添付書類を併せて(被告組合長に対しては、「定款及び規約」、国税の「納税証明書」、町税の「証明書」、「誓約書」を両申請書にそれぞれ添付した。)、各申請を別個にしたことが認められる。もとより原告本人尋問の結果によれば、原告自身右各申請を一体としてなしたものでないことが窺われるだけでなく、法の趣旨、目的、許可の基準からいえば、申請者たる原告が一体として申請する旨を明示し、一方の許可が得られなければ他方の許可も欲しないとの明確な意思を表明するなどがない以上、一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業を同時に併せて営業するのが通例であるとの現実を考慮しても、原告が同時に双方の申請したとか、一枚の申請書に双方の申請を記載したとかいうことだけで、これを一体として申請したものと取り扱うことはできない。

被告田川市長は、原告が申請時に法九条二項、施行規則六条三項に定めるバキユーム車を所有していなかつたので、技術上の基準に適合するとの要件を充足していないと主張する。そして、成立に争いのない丙第七、第八号証の各一、二、同第九号証、同第一一号証の四、五、右丙第七号証の一によつて原告と同被告との間では真正に成立したと認められる甲第一六号証、右丙第八号証の一によつて原告と同被告との間では真正に成立したと認められる甲第一七号証によれば、小型特殊自家用糞尿車二台(三菱K―FE一一一B改・車台番号FE一一一B―一一六七六・北九州八八な二〇八二と同FE一一一B―一二一八七・北九州八八な二〇八三)は、昭和五五年六月二四日原告名義に新規登録されていたが、前者については昭和五六年三月一七日竹下数雄に、後者については同月七日九州三菱ふそう自動車販売株式会社(使用者・有限会社田川衛生工業)にそれぞれ名義変更されたことが窺われるうえ、証人藤川武夫、同宇都宮昭生は、原告自身右申請に際しバキユーム車を所有していないと述べた旨供述する。

しかし、前顕甲第一六、第一七号証、丙第七、第八号証の各一、同第一一号証の四、五、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第一五号証、成立に争いのない丙第一一号証の一、二に原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の妻小峠光代が昭和五五年八月二一日同被告に対しし尿浄化槽清掃業の許可申請をした際、その申請書に添付された使用器材明細書には、「四輪車(一台は予備車及びし尿浄化槽清掃車)」と記載し、種類「バキユーム車」、数量「二トン(二台)合計二台」、備考「三菱K―FE一一一B(改)・FE一一一B―一二一八七・北九州八八な二〇八三、FE一一一B―一一六七六・北九州八八な二〇八三」と記載したほか、右自動車二台が同年六月二四日付で原告名義に新規登録された旨の自動車検査証を添付していたが、原告は、右申請に対する許否が長引いたとして、昭和五六年二月七日右二台のバキユーム車を神奈川三菱ふそう自動車販売株式会社に返還し、和解金一一〇〇万円を受領したことが認められるので、これらの事実からすると、同被告の主張するところは、原告名義であつた右バキユーム車二台が原告の同被告に対する前記許可申請時には既にその名義を移した後であつたということを指すものと思われる。前顕甲第四号証の一、五、六、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる同第一二ないし第一四号証、原告本人尋問の結果によれば、原告の同被告に対するし尿浄化槽清掃業許可申請書に添付された使用器材明細書には、種類「し尿浄化槽清掃車」、数量「二トン」、備考「四輪車三台(一台は予備車及びし尿収集車)」と記載されていたこと、原告は、昭和五六年三月二〇日、三菱自動車販売株式会社から車名及び型式「三菱K―FE一一一B」、車台番号「FE一一一B―七三六三八」・「同七二八四六」・「同一二四七四」の三台の自動車の譲渡を受けたことが窺われる。従つて、この事実と対比するとき、同被告において原告がバキユーム車を所有していなかつたと判断したとしても、それは、原告の妻の申請から知りえた他の自動車についてであつたというほかなく、証人藤川武夫、同宇都宮昭生の右供述部分は右認定事実と対比するときこれをそのまま採用することはできず、他に同被告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

してみれば、被告らの原告に対するし尿浄化槽清掃業についての各不許可処分は、いずれも法九条に反して違法といわざるをえない。

三  以上によれば、原告の被告らに対する各請求は、各し尿浄化槽清掃業不許可処分の取消しを求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富田郁郎 山口毅彦 岸和田羊一)

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